大西です。
2019年12月12日に「令和2年税制大綱」の原案が発表されました。
その中で、海外不動産の短期減価償却を利用した節税を封じる内容が明記されています。
その要点と海外不動産に与える影響や対策について考えてみたいと思います。
税制改正の海外不動産節税封じの要点
海外不動産とありますが、新興国は減価償却を利用した節税目的ではなくキャピタルゲイン狙いの要素が強いため、実質アメリカとイギリスの不動産を指していると思ってよいと思います。
改正の内容は、これまで海外不動産の減価償却によるマイナスを給与所得などと損益通算し課税所得を抑えることができましたが、2021年以降の所得から損益通算ができなくなるというものです。
2019年の所得(2020年の確定申告)⇒損益通算可能
2020年の所得(2021年の確定申告)⇒損益通算可能
2021年の所得(2022年の確定申告)⇒損益通算不可
例えば2019年12月に購入すると13か月の損益通算は可能だがそれ以降できないということです。
正確には、減価償却のマイナス部分を損益通算できなくなるので、土地負債利子のような扱いに近いと思います。
アメリカ不動産の節税に注意!国内不動産の土地取得利子が損金にならない可能性有
疑問点!それは遡及しているのでは?
原則は取得時の税制が適用されるので、税制改正前に取得していた物件はその当時の税法が適用されるはずです。
しかし、いつ取得した物件から対象となるのか記載がありません。
今のところそのまま解読すると過去に購入している海外不動産を含め、2021年の所得からは損益通算を認めない、ということになります。
そのような決まりがなかった2,3年前に購入している物件でも遡って効力を及ぼすなんてありなのでしょうか?
2019年後半に購入している場合は特に、それであれば買わなかった!という方もいるかと思います。
適用要件を作るべきではないかと思いますが、まだ12月12日時点では原案が発表された段階で、正式に改正された訳ではありません。
今後の閣議決定、法案作成、法成立と進展するなかで、先送りや見直しがされることもあります。
今後明らかになっていく詳細に注目です。
購入してしまったが税制が改正されても損しないのか?
利益がでるか損するかは
どのような融資条件で
どんな物件を
いくらで
購入したかによります。
不動産から上がる利益は3つです。
〇賃料収入(利回り)
〇キャピタルゲイン(値上がり)
〇プラスα 節税
そもそもおまけの節税です。
賃料もそれなりに手元に残り、売却したときに同じくらいの価格かそれ以上で売れれば当然利益は出せます。
しかし、
高金利で借りたので返済額が賃料より大きく、
節税ありきで高い物件を買ったので売却額が購入額の7割にしかならず、
その上、期待していた節税が得られない
賃料収入⇒マイナス
キャピタルゲイン⇒マイナス(キャピタルロス)
節税⇒ややプラス
当然、購入費用、売却費用はマイナス
となると損します。
節税ありきの高金利融資、高値物件掴みをした方は、節税が無くなったときに利益がでないどころか損する可能性があります。
物件価格に影響を与えるのか
ここ数年でアメリカ不動産を扱う業者が増えましたが、それでも日本人相手に売買を行ったのは数万件ほどではないでしょうか。
アメリカ本土に限っては、例えばダラス・フォートワース都市圏で人口600万人以上。
日本人が沢山手放したとしても、全体の市場から見ると一部であり、買い手は十分に見つかるのではないでしょうか。(希望価格で売れるかは別)
一方、ハワイなんかは日本人を対象にしたマーケットが確立しているので、節税効果がなくなったことによる影響は多少出てくるのではないかと予測します。
対策
今後このまま税制が改正され、2021年以降海外不動産の減価償却が損益通算できなくなったとして、どのような対策があるのか考えてみました。
現地人に売却
高金利で融資を受けている方は売却も選択肢に入ります。
節税ありきで購入している場合、その節税効果が無くなると損がでる可能性があるためです。
しかし、売り買いに伴う経費がかかるため、よほど高値で売れない限り短期売却は投資としてマイナスになる可能性が高いです。
また現状テナントが入居しているようであれば、売却のタイミングを検討する必要があります。
一般的には投資物件として売却する(オーナーチェンジ)よりは、テナント退去後に居住用物件として売却した方が高値になる傾向にあります。
その場合、次回の契約更新時に退去してもらうまで待つ必要があります。
法人に売却
今回の税制改正は個人に対するもので、法人についてはその限りではありません。そのため法人の税の繰り延べという形での需要は残ると思います。
そして2021年に個人から資産管理会社に売却することも可能かと思います。個人から法人への売買は国内不動産ではよくあります。
しかしこのケースは現地国の税制が絡んだり、移転費用に対する効果が伴うかなど検証が必要です。
短期減価償却を選択しない(22年で減価償却する)
2019年に購入している方に関しては、これから確定申告となるため短期償却をせず22年で減価償却をするのも一つの手ではないかと思います。
減価償却は長い分には構いません。
短期減価償却を取らなければ、給与所得と通算して大きく課税所得を減らすことはできませんが、
短期償却しなければ22年間、賃料に対してはあまり税金がかかりません。
例
物件価格 3000万円
建物比率 80%
建物価格 2400万円 ⇒本来、年間600万円減価償却を取りたい
減価償却費 22年償却の場合、約110万円
所得4% 120万円(物件の収入ー経費)
120万円(所得)-110万円(減価償却)=10万円(課税所得)
ほぼほぼ無税(課税所得10万円×税率)で120万円を22年間受け取れる計算になります。
ご自身の所得税率がそこまで高くなければ、1年と数か月の節税効果よりこちらの方が良いかもしれません。
しかし、この方法は現金購入か低い金利(国内で1%台金利など)で借りている人に限られます。
節税を目的とするあまり無理に高金利の融資を受けて購入している方は、収入よりも返済額が大きくなってしまいます。
毎年持ち出さなければならないようでは、とても長期保有はできません。
6年目以降売却・長期保有
そもそも適正価格で購入していれば、購入価格くらいで売却することは十分可能です。(当然景気等にもよるが)
無理ない融資を引いていれば、手元にも賃料が残りますし、売却しても自己資金+残債が減っている分くらいは手元にお金が残ります。
それに数年でも節税効果が上乗せされれば、売り買いの手数料などを差し引いても損することはありません。
上記記載の通り、すぐに売却することもできますが、1、2年の保有で大きくキャピタルゲインが得られる可能性は少ないでしょう。
購入額で売れたとしても、買って売っての手数料で損が確定します。
アメリカの賃料、物件価格が上がるという特性からしてもできるだけ長期保有したほうが賢明と思われます。
高金利の借入をされている方は、先々節税効果が無くなってもキャッシュフローが回るように下記改善策をとることをおすすめします。
還付金を繰り上げ返済に充て、賃料≧返済額の状態にする
金利1%台後半の国内不動産担保融資に借換えを行う
まとめ
節税効果が無くなったとしても、空室率が低く賃料も物件価格も経済成長、人口増加と共に上がっていくという利点はなくなりません。
できるだけ中長期で保有し続けられる状態を整え、大きくキャピタルゲインがとれるタイミングで売却するのが良いかと思います。
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